全米で歴史的黒人大学ノーフォーク州立大学のアドミッションカウンセラーとして勤務しだしてまもなく2年になろうとしている私。私の専門は留学生担当なのだけれど、アメリカ人学生のカウンセリングや学生勧誘活動もするので、地元高校生や先生達と会話をする機会も多い。私達アドミッションカウンセラーの重要な業務の1つが、高校に出向いて直接学生や進学指導カウンセラーと会話をすること。黒人大学に通う学生の大半は、今だに家族親戚一同ではじめての大学進学者、「ファースト・ジェネレーション」の学生なので、学生達に大学出願の方法や奨学金の探し方、国支給の学費補助金の申請方法などを細かに説明する必要があるのだ。保護者が学位を持っているのといないのとでは、子供が大学進学の年齢に達した時の対応に大きな差がでてくるのはやはり否めない。不安な保護者が私達アドミッションカウンセラーに電話をかけてくるのも日常茶飯事なので、保護者の対応も大事な仕事。
「大学進学と人種」についてはアメリカではさまざまな議論が交わされているのだけれど、変わりない事実は、白人に比べて黒人、ヒスパニックの大学進学率はまだまだ低いこと。でもこれは決してマイノリティーの学力が白人に比べて劣っているということではない。個人の能力ではなく、環境が大きく影響している。まず、マイノリテイー学生が多く通う高校は、ダウンタウンなど都市の公立高校に集中しているが、公立の高校の先生達は学生達の進学指導にかける時間がなく、また政府からの資金補助も限られているので、進学のための特別コースなどを設ける事もできないのが実情。私立の高校では外国語や大学進学準備クラスがみっちりと組み込まれていたり、高校にいながら大学レベルの授業も受けられたりするだから、これは大きな差に現れてくる。
アメリカの大学進学に際しては、いわゆる日本の共通一次試験のような、全米共通の学力審査SAT試験の結果を高校からの成績表と合わせて提示する必要があるのだけれど、一般的に黒人学生とヒスパニック学生はSATのような学力試験が苦手といわれている。SATの試験の語彙力セクションに関しては、昔から「人種的に偏った出題」ということが議論されている。というのも、この語彙力の試験では、白人の中流階級の間でよく用いられる語彙の意味が問われる問題などが以前あり、「意図的に黒人学生に点数を取らせないようにしている」といくつかの雑誌などでも取り上げられた事があったからだ。現在ではさすがにこのような問題は削除されてはいるが、前述したように高校の環境に大きな差があり、マイノリテイー学生達は大学進学に対しての十分な準備と知識が与えられないケースが多い。大学アドミッションカウンセラー達の悩みの種なのである。でも最近は高校生の指導に全力を尽くす先生達に出会う事も多くなってきたのは朗報。一人でも多くのマイノリティー学生達に大学進学へのアクセスを作ろうというプログラム「ACCESS」に取り組む、一人の若き高校カウンセラーに会った。彼女に頼まれ、今日は彼女が勤務する高校でACCESSプログラム参加学生達に大学出願についての講義をしてきた私。学生の95%は黒人学生だった。この高校の大学進学率は10%未満。他の高校に比べるとかなり低い。ACCESSのようなプログラム始動によって、一人でも多くのマイノリティー学生達が大学進学、そして卒業に至ってくれる事を心から願う。ブラックカレッジをステップにして、輝かしい未来の入り口にたった学生に出会うと涙がでそうになる。この仕事をしていてよかったと感じる瞬間である。